いわゆる“ドヤ街”と呼ばれる、日雇い労働者が集まる街で働いて3年。
発注先からの仕事を取り纏め、その日の朝に稼働できるおじさん達に声をかけて人数を確保する、よく言えば派遣コーディネーターのような役割を担っていましたが、今春退職しました。
その理由は、人間とはあまりにも貧しいと、心まで貧相になってしまうということを、身を持って体験したためでした。

盗難されるほうが悪い
3年間で、自分の持ち物(ポーチや財布)が3回も盗難に遭いました。
そこにいる方々を疑いたくはなかったのですが、状況的にはその中の誰かが犯人だとしか思えない。上司に報告しても、「そりゃ、そんなところに物を置いておく君が悪いよ」の一言。
治安は守られず、“性悪説”で成り立っている人間関係の構図は、あまりにもシビアで冷たいものに感じられました。次第に自分自身もその境遇に慣れてしまい、相手は「放っておくとサボったり、盗みを働いたりする人」だと疑うようになってしまいました。
実家に戻ると、母から「人相が悪くなった」と言われてしまいましたが、そりゃそうだろう、とさえ思っていました。
派遣するのは「人」なのに・・・
毎朝、現場に何人もの人を送り込むのに、しょっちゅうトラブルが発生しました。言われた指示を守らない、口をついて出るのは文句ばかり、無断でサボる、途中でバックれる・・・
その度に電話が鳴り、日中も心休まる瞬間がありませんでした。送り込むのは人格を持った「人」なのに、次第に自分の心があまりにも冷徹になり、まるでモノを扱うかのように、どこに何人、あそこに何人、と、数字でしか意識しないようになりました。どうせ1人、2人脱落者が出るから、1人多めに入れておこう、とか。派遣される人たちの更生や成長なんてまったく興味を持つことなく、淡々と人数合わせをする日々が続きました。
「人の心がないのか!」と怒鳴られる
ある日、事件が起こりました。
風邪で体調が悪い、とぶつぶつ言っていたおじさんに対して、“どうせたいしたことないだろう、いつもの働きたくない言い訳だろう”と、「そのくらい文句言わずに現場に行ってくださいよ」と話してしまった私に対して、そのおじさんは「あんたには、人の心がないのか!」と怒鳴ったのです。
念のために体温計で測ってみると、39度もあり、結局病院で診察してもらうとインフルエンザにかかっていました・・・。
最初から「熱がある」という申し出をウソだと決めつけ、聞く耳を持たずに仕事を強行させようとしていた自分を恥じ、いつの間にこんなに冷たい人間になってしまったのだろう・・・と、自己嫌悪になってしまい、翌日からコーディネートすることさえも怖くなってしまったのです。ただでさえ、現場は法律スレスレの、あるいは法律違反を承知の上での、危険な現場ばかりでしたので・・・。
別の派遣会社へ転職する
心を病んだ私は、その後退職して別の派遣会社へ転職しました。
今度は、登録者の多くはフリーターや主婦、大学生です。家があり、食べるもの、着る服に困っていない人たちは、当たり前のことを当たり前にする人たちばかりでした。このことがどれだけありがたいことなのか、今の私には身に染みて感じられます。
ドヤ街にいた方々も、根は優しい、いい人たちばかりだったことも事実です。
それでも、お金がなく、食べるものに困ってしまうと、知らず知らずのうちに心まで貧しくなってしまい、ギスギスした人間関係となってしまう。
そのことを痛感したからこそ、ちゃんと働いてお金を稼ぐことは大切なのだと、若い学生さん達には伝えてあげたいと思っています。
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