高校生の頃から、芸人になるという夢を追いかけて養成スクールで腕を磨いてきた私。
漫才コンビとして活動してきましたが売れないまま20代後半に差しかかり、いつまでも陽の目を浴びることのできないまま、生活も立ち行かなくなってしまうことが怖くなってきました。アルバイトしながらネタ合わせをする生活に区切りをつけ、生まれてはじめて転職活動をすることにしたのです。

経験もない、資格もない
いざ履歴書を書こうとしてみて、愕然としました。当たり前なのですが、コンビニのレジ打ち以外の職務経験など皆無で、PRできる経験も、資格すらありません。
何をPRして、どんな企業のどんな仕事なら自分に向いているのか?と考えてみても、さっぱり思い浮かぶ企業はありませんでした。この状態のまま30代手前の自分のような人間を採用してくれる企業などあるはずがない。
その焦りから、リクナビNEXTやマイナビ転職などの転職サイトをただぼーっと眺めている日々を過ごしてしまいました。
本に書いてある通りに自己分析に取り組んでみたものの、自分の特徴らしい特徴といえばコミュニケーション力、人を笑わせるために努力してきたことが人との会話に活かせるかな、という程度で、何がやりたい、どんな仕事に就きたいというビジョンも何も見えてはきませんでした。
高校時代の友人と再会
途方に暮れていたある日、たまたま同級生が海外転勤になったということで送別会があり、そこで同じクラスだった旧友と再会しました。この日が自分にとって人生の分岐点となったのですが、彼は大手人材会社に就職し、転職エージェントとして働いていたのです。
お笑いの道を断念したこと、転職活動に取り組んではみたものの全く進まず苦戦していることを、それとなく告げてみたら彼は豪快に笑い飛ばしてこう言ってくれました。
「人を泣かせたり怒らせたりするのは簡単。笑わせるという一番難しい感情を引っ張り出してきたお前の話術は必ず武器になる。任せてくれ。お前にぴったりな仕事、俺がみつけてやる」と。
漫才では結果が出せず、転職活動でもまったくうまくいかない自分に嫌気がさしていたその当時、こう言って励ましてもらえたのは涙が出るほど嬉しかったです。
笑わせることが武器に
後日、彼から数社提案をもらいました。業種はメーカー、専門商社などバラバラでしたが、どれもいわゆるルート営業の仕事。営業未経験の自分にとっては、固定のお客様のところを毎日ぐるっと回って会話しながら関係性をつくっていくことのできる仕事がちょうどいいのではないか、という提案でした。
「ルート営業といっても、別に毎日毎日商談しているわけではない。何気ない会話が大事になってくる。そこで、お前がこれまでに磨いてきた話術が活きるはずだ。どうせお客さんだって時間をつくって面談してくれるなら、クソまじめな会話ばかりではなく、ちょっとクスッと笑わせてくれる営業マンに会いたいと思うはずだ」と。
思いの外、プロの漫才師をしてきたというキャリアは面接でもウケました。
そりゃ、周りの候補者でこんな経歴の人間なんていないですよね。
関西の地で、お笑いに理解のある風土であったこともプラスに働いたかもしれません。
最終的に、実家からほど近いとある中小企業から内定を頂くことができたのです。
目の前の人を笑顔にする、その一心で
そんなプロセスを経て営業の仕事をはじめて、もう半年になります。
当初ははじめての仕事に戸惑いの連続でしたが、ようやく毎日の仕事の流れも理解し、自社商品の知識も頭に入り落ち着いて毎朝を迎えることができるようになってきました。
漫才と営業の仕事は、当然まったく異なるものです。
しかし、目の前の人に笑ってもらう、笑顔にするための努力をする、という点では、意外に似ている部分があるなあと最近になって思います。
お笑いの道を諦めた先輩、後輩たちの多くは、同じ境遇にいた先輩を頼って、同じ仕事に考えずに就いたりしています。「仕事はどう?」と聞いてみても、「まあ、俺にはこんなことしかできないからな」と、さみしそうな答えが返ってきたこともあります。
でも、今は胸を張ってこう言えます。
確かに漫才は特殊な仕事で、潰しが利くわけではない。でも、誰かを笑顔にしようと努力してきたことは、必ず今後の人生でも活かせる武器になるよ、と。
facebookページはこちら