学生時代から付き合ってきた人と入籍し、子供を授かった頃までは、私もごく普通の、平凡な主婦としてこの先の人生を歩んで行くつもりでした。妊娠、出産を機に勤めてきた地元の銀行を退職し、子育てに集中するつもりだったのですが夫がリストラに遭ってしまい、転職活動もなかなかうまくいかず。
悪い話は続くものでそれから夫婦仲も急激に悪化し、結婚後5年で離婚することになり、女手ひとつで子供を育てていく必要に迫られることになったのです。

時間と場所の融通が利かない
久しぶりに履歴書を書いて、いざ転職活動を開始して愕然としたことがあります。それは、世の中がいかにシングルマザーに対して冷たいのか、という現実に気づいたことでした。両親とも数年前に死別していた私にとっては、子供を気楽に預けておける相手もいませんでしたから、保育園に預けるという選択しかありませんでした。
やっとの思いで入園できる先を確保したものの、今度は転職活動において、自宅からの通勤時間を考慮し、また保育園の送迎に間に合う短時間での勤務というのが制約条件になってしまいました。
そうすると、パートタイムでの仕事であればいくつか見つかったのですが、長く続けられるような正社員としての求人は、なかなか出てきません。やっと見つかったと思っても、社会人としてのブランクが長い私を雇用しようとしてくれる特異な会社なんて、そうそう見つからなかったのです。
世の中には、シングルマザーで働き口がなく、やむなくお水の仕事で生計を立てているという方が多いという話を聞いたことがありましたが、それもわかる心境になっていきました。
偏見に満ちた面接の場で
転職活動を続ける中でたまたま、とても良い転職エージェントの方とお会いすることができて、私の転職活動の道は一気に開けました。ブランクがあるとはいえ証券会社に勤めていた頃に取得したファイナンシャル・プランナーの資格や、やってきた業務経験を生かして時短で勤務できそうな求人を発見してくださったのです。
自宅から少し距離はありましたが、正社員で福利厚生も申し分なく、覚悟を持って面接に臨みました。しかし、出てきた面接官は何と言うのか、とても古風な考え方の年配の男性でした。
「子供のことが気になって、仕事に集中なんてできないんじゃない?」
「まだお若いし、そのうちすぐ再婚して、仕事を辞めるつもりなんでしょ?」
と、最初から私が真剣に仕事に打ち込むはずがない、と決めつけて小馬鹿にするような態度だったのです。私はあまりの悔しさに、面接中ということも忘れて涙を流してしまいました。
ここじゃない、私が安心して働くことができる場所は。
そう思い、面接を中座して帰ろうとした、その瞬間でした。
応援してくれる仲間が
面接室には、人事責任者であったその面接官の男性ともう一人、現場の上長である女性の方が同席しておられました。おもむろに彼女から、「つらい思いをしてこられたでしょう?」と、声をかけてくださったのです。
「私は離婚したことがないし、結婚はしたけれども子供を授かる機会がなかったので、こうして何のストレスもなく仕事を続けることができました。
でも、これからの社会は、多様性を認め合うようにならなくてはいけないと考えています。当社でも、多様なバックグラウンドを持つ方々が集まり、互いに尊重して働くことができるような組織風土に変えていきたいと思っているのです。悪しき風潮は一切排除して、ね」
最後の「悪しき風潮」という言葉により一層力を込めて大声でお話されたのは、きっとその面接官への当てつけだったのでしょう(笑)。
あまりの迫力に面接官の男性は黙り込んでしまい、そこからは彼女が主導して私に問いかけてくださったのです。
これまでの職務経歴を詳しく訊きたい、と。結果、その方のおかげで私は採用され、今も上司として一緒にお仕事をさせて頂いているのです。
働きやすい職場作り
私が入社した後も、彼女は有言実行で外国籍の方やフリーターの方など、本当に様々なタイプの方を次々と採用し、私がいる部署はさながら「人種のるつぼ」であるかのように、バリエーション豊かな人員構成となりました。嬉しかったのは、その中にはシングルマザーは一人もいないにも関わらず、皆さんが私や私の子供のことをとても気にかけてくださるのです。
保育園での子供の発表会があった日も、実は社内ではけっこう大事な研修がある予定だったのですが、私が自分から言い出せずにいるのを察知した上司が、「子供の発表会って、今月って言ってなかったっけ?」と話しかけてくださって、特別に研修の様子を録画して共有してくださったり・・・本当に嬉しく、感動してしまいました。
そこまでして頂いているからには、私も皆さんのお役に立ちたい。どこかしらに闇を抱えてきた、似た境遇の仲間達のためにも、皆さんが困っていることがあればすぐに手を差し伸べて、助け合い、支え合う。そんな職場に成長していくことができました。金融の知識は私が一番持っていたため、私が講師役としてレクチャーをさせて頂いた時には、新卒新人時代に読んでいたテキストを引っ張り出して勉強し直しましたが、まさか捨てずに取っておいたテキストがこんな形でまた役に立つとは・・・人生、わからないものですね(笑)。
これからも、仲間のため、お客様のため、そして何より、かけがえのない子供の未来のために、頑張っていきたいと思います。